大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京地方裁判所 昭和46年(ヨ)2388号 判決

債権者 吉岡昭司

右訴訟代理人弁護士 船越広

同 葉山岳夫

債務者 日本国有鉄道

右代表者総裁 高木文雄

右訴訟代理人弁護士 真鍋薫

同代理人 栗田啓二

〈ほか六名〉

主文

債権者が債務者に対し雇用契約上の権利を有する地位にあることを仮に定める。

債務者は債権者に対し、昭和四六年九月一日以降本案判決確定に至るまで毎月二〇日限り、別紙賃金目録の月額賃金欄記載の金員を仮に支払え。

申請費用は債務者の負担とする。

事実

第一申立

一  申請の趣旨

主文同旨。

二  申請の趣旨に対する答弁

1  債権者の申請を却下する。

2  申請費用は債権者の負担とする。

≪以下事実省略≫

理由

一  債権者の地位及び本件免職処分

債務者は国鉄法に基づいて設立された鉄道事業等を営む公共企業体であり、債権者は昭和二八年四月一日債務者に雇用されてその職員たる地位を取得し、昭和四六年八月当時東京北鉄道管理局下十条電車区車両検修掛の職にあり、同時に国労に所属し、右当時国労東京地方本部上野支部十条電車区分会執行委員組織部長の地位にあったこと、債権者は債務者からその職員たる地位に基づき毎月二〇日毎に当月分の賃金の支給を受けてきたが、昭和四六年九月以降在職を前提として受けるべき賃金月額が少くとも別紙賃金目録の月額賃金欄記載のとおり(その基礎たる職群号俸、基本給、諸手当は同目録の各該当欄記載のとおり)であること、及び債務者の総裁が債権者に対し昭和四六年七月七日付で国鉄法三一条一項に基づき懲戒処分として免職する旨の通知をし、同年八月三一日付で右処分を発令し、同年九月一日以降債権者を債務者の職員として取扱わないこと

以上の事実はいずれも当事者間に争いがない。

二  本件免職処分事由たる債権者の所為

(一)  債権者の本件所為に至るまでの経過

債権者の所属する国労が中央執行委員長の昭和四六年五月一四日付ストライキ指令に基づき全国各拠点において同月二〇日午前零時から午後七時ころまで本件ストを実施したことは当事者間に争いがないところ、≪証拠省略≫を綜合すると、次の事実が疏明され、これを左右するに足る証拠はない。

債権者の所属する国労東京地方本部上野支部下十条電車区分会においては、右スト指令を受けて、同月一五日と一八日に分会闘争委員会を開き、さらに同月一九日夜からスト当日の二〇日午前二時ころにかけて闘争委員の連絡会議を持って、その分会における具体的実施方法を協議決定したうえ本件ストに突入した。同分会には、分会執行委員長、同副執行委員長、同書記長各一名及び同執行委員六名(但し当時一名欠員)が置かれ、これをもって分会執行委員会を構成しているが、闘争時にはこれら役員が当然に闘争委員会を構成し、分会としての具体的実施方法を決定するとともに、闘争当日の行動については、執行委員長を最高責任者とする指揮態勢の下に、各役員が分担して闘争時の組合員の掌握、指導の任に当ることとなっていた。なお組合員のうち一定年令以下の者をもって青年部が組織されておりその責任者として執行委員に準ずる立場の青年部長が置かれ、青年部長もまた事実上右闘争委員会に参画し、闘争実施に当っては執行委員長ないし分会三役の指揮下において青年部組合員の掌握の任に当ることとなっていた。また本件スト時には、下十条電車区のほか、赤羽、王子、東十条、田端駅を掌握する現場最高責任者として上野支部執行委員平井弘治が現地に派遣された。

本件スト当日下十条電車区構内に滞留してスト参加行動をとる組合員(いわゆる籠城者)は、青年部とそれ以外の組合員を分けてほぼ一〇名前後を単位とする班編成により行動することとされていたが、債権者は前記闘争委員会の協議を経てスト当日の青年部員を含むこれらの籠城者の班編成指導並びに編成された班の待機態勢の掌握の任務を分担し、この任務に基づき債権者は、スト前日の一九日午後六時三〇分ころから同七時一五分ころまで同電車区台検職場で開催された国労、動労共闘集会の終了後、同七時三七分ころまでの間同分会国労組合員多数に対し、「これからは下十条電車区の独自の闘争に入る。特に青年部の人に頑張ってもらいたい。個人行動をとらず班行動をとるように。今後の行動については私が指示する。」との意味の指示をした。(債権者の右任務は、青年部組合員を含め組合員を班編成することを指導しかつ編成された班が時々においていかなる行動をしあるいは待機態勢にあるかを把握することであって、班編成された組合員が具体的な行動をとる場合にその指揮は必ずしも債権者が当るわけではなく、その都度情勢に応じ適宜指揮者が定められるのであり、その行動が青年部組合員としてまとまって行なわれるときは原則として青年部長が直接の指揮者になるという関係にあるものとみるべく、従って債権者の集会における右指示の趣旨も、右の意味において債権者が組合員の態勢を掌握することを伝えたものと認めるのが相当である。)。

前記闘争委員会等の協議の中では、スト当日のスト未参加組合員に対する説得行動や運行される電車に対する抗議行動も検討されたが、説得行動は最後までねばり強くすべきことが確認され、運行される電車(特に初発電車)に対してはストのスローガンを記載したビラを貼布するものとし、ビラ貼り行動は主として青年部組合員の任務とされ、その他の説得、抗議行動は、時時に応じて手すきの役員や組合員が適宜これに当るものとされた。スト当日午前二時ころまでの情報では、同電車区関係の初発電車として、東十条駅始発の四時一五分発南行電車と赤羽駅始発東十条駅四時三〇分ころ通過の南行電車が運行されるとの予測があり、これらに対する説得、抗議及びビラ貼り行動をとることが確認された。

当日午前三時三〇分ころ、組合員約一〇〇名が同電車区第二検修室前に集結したうえ、田島甲一分会執行委員長を最高責任者として、まず東十条駅四時一五分発の第四〇一B電車に対する行動として、同電車区構内滞留位置において三木検修助役と共に点検作業に従事している大屋運転士(国労組合員)に対しスト参加を呼びかけた後、同電車が出発のため東十条駅北行ホームと南行ホームの間にある中線に入ると、同所において同様の説得行動をし、同時に主として青年部組合員が青年部長の指揮下に同電車に対しビラを貼った。同電車が発車した後四時三〇分ころ予測どおり赤羽始発第四二一B電車が同駅南行ホームに到着すると、これに対しても同ホームにおいて、右同様運転士等に対する説得、抗議行動やビラ貼り行動をとり、やがて同電車も発車した。債権者も右各説得、抗議行動に加わった。

(二)  第四二二B電車関係の債権者の所為

≪証拠省略≫を綜合すると、次の事実が疏明され、これを左右するに足る証拠はない。

前記のとおり赤羽始発電車が発車して債権者や田島分会長を含む組合員らは南行ホームから同電車区構内に引きあげようという態勢にあったところ、予測外の上野始発第四二二B電車が同駅北行ホームに入線するとの情報が入ったので、急拠同電車に対しても同様の説得、抗議等の行動をとるべく、債権者、田島分会長を含め組合員らは北行ホームにかけつけた。債権者は、同日午前四時四四分同電車が同ホームに到着するころ、組合員約一〇〇名の大半とともに同ホームにかけつけ、同電車到着とほとんど同時に同ホーム大宮寄りの同電車運転席横に近づいた。運転席には運転者として久保七男助役と添乗員として国労組合員である高橋寿雄電車運転士が乗務していたが、債権者は同人らの注意をひきつける目的で運転室窓ガラスを手拳で数回叩き、ドアを足で数回蹴ったりしながら、付近にいた田島分会長を含む数名の組合員と共に、右高橋運転士に対し、「ストに参加しろ」「今からでも遅くない」などと呼びかけるとともに、「何をやっているんだ」「スト破り」「裏切者」などの罵声をあびせ、さらに運転席外側の握り棒を掴んで同様の抗議行動を繰り返していたが、その間に青年部組合員らは同電車の前一両目から三両目にかけてビラ貼りを行った。やがてホーム運転掛の客扱い終了合図により同電車乗務車掌が閉扉操作をしたが、前一両目付近のドアを閉まらないように押えている組合員がいたためドアが完全に閉らず、このため車掌は一たん開扉したうえ再度閉扉操作をして閉扉した。他方右久保助役は、債権者の前記のような行動を制止すべく一たん運転席を立ってホーム寄りに近づき「やめろ」などと声をかける(もっともそれが債権者に聴きとれたかどうかは明らかでない。)などしていたが、右のようにしてなかなか運転知らせ燈(ドアの閉扉が完了すると点燈しこれにより運転者は始動措置に入る。)が点燈しないので、運転席後方の窓を通して閉扉の様子を覘くなどしていたが、やがて知らせ燈が点燈したのを認めて運転席に戻り、始動措置をとろうとした。ところがその時なお債権者が握り棒を掴んでいたので一瞬発車を躊躇したが間もなく徐行で始動させたところ、債権者は二、三歩握り棒を握ったまま歩いた後これを離したので、正常運転に移った。このようにして同電車は同駅に三〇秒停車の予定のところ約一分三〇秒延発し、この間に同電車の一両目から三両目にかけて「二一万五千合理化反対」「新賃金一九、〇〇〇円獲得」「不当処分反対」「生産性向上運動反対」のビラ約四〇〇枚が貼られた。

以上のとおりの事実が疏明される。

ところで債務者は、右のような行動をとった組合員が債権者の指揮下にあったと主張するのであるが、以上に認定した任務分担と事実経過に照らし、前記第四〇一B電車、第四二一B電車に対する行動から引続いて右現場における最高責任者は田島分会長であり、ビラ貼りについては青年部長が直接の指揮者であったと認めるのが相当であって、右組合員らの行動が債権者の指揮の下になされたと認めることはできない。

また、証人久保は、債権者が右のように握り棒を掴みつつ手を上下に振りかつ「貼れ貼れ」と叫んで青年部組合員らのビラ貼り行為を指示した旨証言するが、他方債権者本人はこの点を極力否認し、≪証拠省略≫も債権者の供述に副うところ、この点の証人久保の証言にはいささか同人の主観による判断を交えていることが窺われるのでにわかに採用することができず、当裁判所としてはその疏明不十分と考えるのであるが、仮りに債権者の右の如き行動があったとしても、前示のとおりビラ貼り行動は、直接には青年部長の指揮下にある青年部組合員の分担とされ、しかも運行される電車に対して当然に予定されていた行動であり、現にその直前の前記第四〇一B、第四二一B各電車に対して同様にして行なわれてきたことに照らし、債権者のそのような指示がなされなければビラ貼りが行なわれなかったというわけでもないし、またそのような指示によりビラ貼りが一層助勢されるという関係にあったとも考えられないから、債権者の右行動がビラ貼り行為の指揮ないしあおり行為として意義あるものとは考えられない。

次に、債権者が電車始動の際なお暫く握り棒を離さなかった意図について考えてみると、右認定のとおり債権者は右抗議行動の初めのころから握り棒を掴んでいたことと始動後これを握っていた時間は極くわずかであることに照らし、スト不参加者に対する抗議行動に付随する行動としてしたものに過ぎず、電車の発車を絶対に阻止するとか長時間にわたってまで妨害する意図があったものとは認めえない。しかしながら、少なくともこれにより電車の発進が僅少であるにせよ遅延するとの認識はあったものと認めないわけにはいかない。

最後に、右認定のとおり同電車が一分三〇秒延発した原因について考えてみるのに、右認定事実に照らすと、債権者が発車の際握り棒を離さなかったこと及び久保助役が債権者の前示抗議行動等のため運転席から一たん立上って離れ、戻るのに若干の時間を要したこと等債権者の行動に直接帰責される事由がその一因をなしていることは否定し得ないとしても、むしろそれ以上に、組合員の誰かがビラ貼りの時間を稼ぐため閉まろうとするドアを押え、このため閉扉に時間を要したことも無視し得ない重要な一因をなしていることは容易に推察されるところであるから(これら組合員の行動が債権者の指揮下になされたものでないことは既に説明したとおりである)、電車延発の責を債権者の前示行動のみに帰するのは相当ではない。

(三)  庫内運転士詰所関係の債権者の所為

≪証拠省略≫を綜合すると次の事実が疏明される。

当日日勤者が出勤してくる時間帯に合わせて午前八時二〇分ころから同八時四五分ころまでの間、本件ストに参加した組合員を集めて同電車区第二検修室前で集会が持たれたが、その終了後、債権者には、青年部組合員二個班を率いてスト未参加の組合員である庫内運転士に対する説得行動をとるべき任務が割当てられ、そこで債権者は、右第二検修室前で待機中の青年部組合員のうち、長野洋及び中山多正を班長とする二個班約一五、六名を伴って、同九時一五分ころ同電車区庫内運転士詰所に立ち入った。その時同詰所にはストに参加しないで出勤した加藤栄、石川謙次及び大塚孝の三名の組合員たる構内運転士が居り、債権者らが右三名に対しスト参加を迫っているうち、やがて同九時四〇分ころ田中広、大塚庫及び増永正男の三名の組合員たる構内運転士も出勤して同詰所に入り着替えを済ませた。その前後頃から、債権者は、「ストに参加できない」旨答えた以外沈黙している右六名の運転士に対し、同伴した青年部組合員らの先頭に立って、同組合員らと交々、「スト破り」「裏切者」「今からでも遅くない、ストに参加しろ」「ストに参加しないなら理由を言え」などと声高に罵り、やがて管理者である神戸五十首席助役、三木裕検修助役、須藤源次構内助役が騒ぎを知って同詰所にかけつけ、債権者らに対し「業務妨害だ、皆外へ出ろ」などと再三退室を命じたが、債権者は他の組合員らに対し「出る必要はないぞ」と叫び、他の組合員らと交々「組合員同志話しているんだから余計なことを言うな」などと言ってこの命令に従わず、他方では引続き前同様構内運転士らに迫っていたが、その後同電車区区長植松甲子男が連絡を受けて同詰所にかけつけ、右同様退室命令を発したのに債権者らは暫く従わないでいたものの、やがて神戸首席が植松区長と相談のうえ「こういう状態が続くなら必要な措置をとる」と言うと、債権者の「皆外に出よう」というかけ声で、同一〇時前後ころ全員退室した(この退室時刻については本件証拠上詳かにしえない。この点については後述する。)そこで管理者側は構内運転士六名のほか須藤助役一名を同詰所に残して他の者は引上げた。

退室した債権者ら組合員は同詰所前の引込み線路上に腰を下ろすなどして待機の態勢をとったが、やがて債権者だけは一たん同所を離れて、田村幸治分会書記長に庫内運転士詰所の説得の不成功を連絡したうえ、同電車区誘導詰所で他のスト不参加組合員の説得に当るなどした後、午前一〇時三〇分過ころ再び庫内運転士詰所前に戻った。それまでの間前記のとおり待機していた青年部組合員らに坂巻政明を班長とする一個班が合流し総勢二〇数名になっていたが、債権者が戻ってくる直前ころから、組合員らの何名かが詰所入口に押しかけ、「スト破り出て来い」とか「話合いさせろ」とか声高に呼びかけ、これに対し須藤助役が制止し、その間に入口の戸が外れて同助役がこれをはめ直すなどしていたが、そのころ田村書記長が、次いで前記のとおり債権者が同入口付近に到着し、右両名を先頭に組合員らが戸を開けて同詰所に入ろうとした。そこで須藤助役はこれを制止しようとしたが、債権者らは一〇名前後の組合員と共にこれを押し切って同一〇時四〇分ころ同詰所に立ち入り、再び債権者は前記運転士六名に対し「今からでも遅くない、ストに参加しろ」「返事をしろ」「ストに参加しないでその結果どうなるかわからんな」などと迫り他の組合員らも「そうだそうだ」「スト破り」などと罵った。数分後に連絡を受けて神戸首席助役と三木助役がかけつけ、債権者らに退室するよう命じたが、「組合員同志の話合いだから妨害するな」など言って暫く応じないでいるうち、その場にいた田村書記長が神戸首席助役に対し、自分だけで話をさせるよう求めたのに対し、同首席及びそのころ同詰所にかけつけた植松区長がこれを許し、そこで債権者及び他の組合員らは同一一時ころ同詰所を退室した。田村書記長は区長他管理者立合いで右運転士六名の代表としての右増永と約一〇分間話合いをして同人らのスト不参加の意思を確認して出てきたので、同一一時一〇分ころ債権者らは同詰所前から引き上げた。債権者らが同詰所に入室している間、右のようにして詰所内は騒がしい状態になった。

以上のように疏明される。

ところで債務者の主張は、債権者は九時一五分ころ詰所に立ち入ってから一〇時四〇分ころまで(神戸首席助役らがかけつけてからでも約五〇分間の長きにわたり)引続き詰所内に滞留し、一たん退室してからわずか五分位後には再度組合員らが入口に押しかけ管理者の制止を押切って再入室したが、その間も終始債権者がその先頭に立って行動した、というのであり≪証拠省略≫等債務者側の証拠は全てこれに副うのである。しかしながら、≪証拠省略≫がほぼ一致して、債権者は午前九時四〇分ころには一たん同詰所を退出して後他の場所で他のスト不参加組合員に対する説得その他の行動をとり、一〇時三〇分ころに同詰所前に戻った、とするのに鑑み、また債務者側の証拠を綜合してみても、債権者ら組合員と管理者らとが五〇分間もの長時間同詰所に同室したとするにはいささか不自然さが否定しえないことからも、債権者が第一回目の退室と第二回目の入室との間にかなりの時間その場を離れたこと自体は本件証拠上とうていこれを否定することができないというべきである。ただ右債権者側の証拠中退室時刻を午前九時四〇分ころとする点は、前示債務者側の証拠ととうてい相容れず措信し難いから、もっと後の時点と判断せざるを得ないというべく、従って第一回目の退室時刻は本件証拠上これを詳かにしえないが、概ね午前一〇時前後と認定するほかない。次に≪証拠省略≫は、第二回目の入室の行動の先頭に立ったのは田村書記長であって債権者は主導的立場にはなかったとするところ、前示のとおり第一回目の退室後第二回目の入室までの間債権者が現場を離れていたことを否定しえないこと、≪証拠省略≫に照らすと第二回目入室のころ一時的にせよ債権者が現場を離れた時期があった疑いが濃いこと及び証人須藤の証言はその時点での田村書記長の行動、就中いつ同人が詰所入口に現われたのかの点について的確に把握しているとは認め難いこと等に鑑み、右債権者側の証言は少くとも第二回目入室に当っては債権者よりもむしろ田村書記長が主導的立場にあったとの限度において、措信しえないではないというべく、よって前示のとおりの心証に至った。

その他前掲各証拠中前認定に反する部分は採用できないし、他に前認定を左右するに足る証拠はない。

なお、右認定によっても、債権者らの一回目の詰所内での行動は午前九時一五分ころから一〇時前後ころまでの長時間に及ぶのであるが、そのうち前半の同九時四〇分ころ(運転士六名が詰所にそろったころ)までの債権者らの行動については、前認定のようなスト参加を迫り罵声をあびせる行為の一部が行なわれたこと自体は認めうるものの、それがどの程度の頻度、執拗さ、激しさをもってなされたのかについての債務者側の疏明賃料は極めて乏しくかつ大雑把であり、前認定の債権者らのかかる行為の大部分は右九時四〇分ころ以後になされたものとして、前示のとおり認定したものである。

三  債権者の所為の懲戒事由該当性等

(一)  本件ストの違法性

債務者主張のとおり本件免職処分は、本件ストに際しての債権者個人の職員としての非違行為を理由に国鉄法に基づきしたものではあるが、前示のとおり債権者の本件所為は本件ストの実践行為としてなされたものである(争議行為に通常伴う行為の範囲を逸脱しているかどうかは別として)から、債権者の所為が正当な行為として法の保護を受けるかどうかは、まず本件スト自体の適法、違法に関わるから、この点について判断する。

1  憲法違反の点について

公労法一七条一項は公共企業体である債務者の職員及び組合に対し同盟罷業等業務の正常な運営を阻害する一切の行為及びかかる行為を共謀し、そそのかし、あおる行為を禁止しているところ、右の規定が憲法二八条に違反するものでないことは最高裁判所の判例(最高裁大法廷昭和四一年一〇月二六日判決刑集二〇巻八号九〇一頁等)であって、当裁判所も同様に考える。

2  本件ストは右禁止規定に違反するか

≪証拠省略≫によれば、次の事実が疏明され、これに反する証拠はない。

本件ストは、国労及び動労各本部指令に基づき春闘方針としての賃金要求に加え当局による不当労働行為、不当差別、組織介入、不当処分反対等を闘争目標として、国鉄本社直轄にかかる東京北、南、西三鉄道管理局ほか一〇局管内において、これに対応する国労及び動労各地方本部によって、五月二〇日午前零時から同日午後七時ころまで実施されたが、これにより右各局の国鉄職員合計二一、六一六名(うち国労組合員一八、九八〇名)が欠務し、旅客車三、五六九本、貨物車一、三五七本が運休し、旅客車八八五本が遅延した。ことに首都圏に属する東京三局及び千葉鉄道管理局管内では、職員一六、〇七九名(うち国労組合員一四、三二〇名)が欠務し、旅客車二、三六七本、貨物車九六九本が運休し、旅客車八六四本が遅延してその影響が著しく、首都圏の国電はほとんど麻痺し、このためこの事態を予測した当局は首都圏内の交通の混乱を回避するため、朝のラッシュ時の出勤は危険である旨を予めテレビ等で宣伝せざるを得なかった。

右認定事実によれば、本件ストは公労法一七条一項に禁止された同盟罷業に該当し、違法なものといわなければならない。

(二)  債権者の所為の国鉄法三一条一項一号該当性

1  国鉄法三一条一項は「職員が左の各号の一に該当する場合においては、総裁は、これに対し懲戒処分として免職、停職、減給又は戒告の処分をすることができる」とし、その一号に「この法律又は日本国有鉄道の定める業務上の規程に違反した場合」と規定するところ、≪証拠省略≫によると、日本国有鉄道就業規則六六条は「職員に次の各号の一に該当する行為があった場合は懲戒(同規則六七条により免職、停職、減給、戒告の四種類と定められている。)を行う」とし、その一号に「日本国有鉄道に関する法規、令達に違反したとき」、三号に「上司の命令に服しないとき」、一七号に「その他著しく不都合な行いのあったとき」と規定し、職員服務規程(昭和三九・四・一総裁達一五〇)八条に「職員は故意に他の職員の業務を妨害してはならない」との規定が、労働関係事務取扱基準規程(昭和三九・六・三〇職達二)一七条二項に「職員は、所属長又は箇所長の許可した組合掲示板以外の場所に、労働組合の掲示類を掲出してはならない」との規定が、昭和二四年七月二日付総裁通達(国鉄文第一七八号)に「機関車、客貨車、電車、自動車及びその他の車両に制定以外の文字、絵画などを記載し又は掲示することを禁止する」旨の規定が各存し、右就業規則は国鉄法三一条一項一号の「日本国有鉄道の定める業務上の規程」に、右各規程、通達の定めは同就業規則六六条一号の「日本国有鉄道に関する法規、令達」に各該当することが疏明され、これに反する証拠はない。

2  第四二二B電車関係の所為について

前二項(二)に認定した債権者の所為中、同電車運転室窓ガラスを手拳で叩き、ドアを足で蹴った所為及び他の組合員と共に罵声をあびせた所為は、現に運転及び添乗業務に従事中の高橋運転士及び久保助役に対し心理的に威圧を加えることにより、その業務を妨害する行為に該当するものといわなければならない。また前認定のように債権者の行動と因果関係を有する限度においてではあるが電車の発進を遅延させた所為は、同様職務妨害行為に当ることが明らかである。債権者の所為はこの限度において前記職員服務規程八条に違反するものであるから、前記就業規則六六条一号に該当するというべきである。他方同電車にビラ約四〇〇枚が貼られた点については、前示のとおりこれを直接債権者に帰責することができない。

3  庫内運転士詰所関係の所為について

前二項(三)に認定した債権者の所為について考えると、債権者は青年部組合員一〇数名を率いて、その多数の威力をもって、ストに参加せず就労の意思を有する六名の運転士に対し、長時間にわたりスト参加の説得の限度を超えて罵声をあびせ、威力によりスト参加を迫り、同詰所内を一時混乱におとしいれたものというべく、かつ管理者の再三の退室命令に従わなかったものであるから、これらの所為は前記職員服務規程八条に違反するものとして就業規則六六条一号に該当するとともに同条三号にも該当するものといわなければならない。なお、≪証拠省略≫によっても、当時右六名の運転士に具体的に遂行すべき職務があったとの疏明は十分でなく、他にそのような疏明はないが、来るべき具体的職務のために待機していることも一つの職務であるから、その待機態勢を混乱させる行為も一つの職務妨害といって妨げない。

(三)  国鉄法適用の適否について

債権者は、労働者が集団的労働関係上の権利たる争議権の行使としてした所為に対しては、国鉄法や就業規則を適用して個別的労働関係上の問責をすることは許されない旨主張するが、職員のした争議行為あるいはそれに付随してした所為が懲戒規定に触れる場合に、懲戒規定の適用が排除されると解すべき合理的理由は肯認し難く、これに対しその態様、程度等具体的事情に応じ、公労法上の解雇をするかあるいは懲戒処分その他の措置をとるかは、国鉄総裁の合理的裁量に委ねられていると解するのが相当であって、債権者のこの点の主張は採用できない。

四  懲戒権の濫用

以上のとおりであるから、債権者の前示所為に対し、債務者総裁は国鉄法三一条一項により免職、停職、減給又は戒告の懲戒処分をなしうるところ、この所為に対し右のうちどの処分を選択すべきかについては具体的基準を定めた法律や業務上の規程は存在せず、債務者総裁の裁量に委ねられ、そしてその裁量に当っては一般に、当該所為の外部に表われた態様のほかその所為の原因、動機、状況、結果等はもちろん、当該職員のその前後の態度、被処分歴、社会的環境、選択する処分が他の職員や社会に与える影響等幅広い範囲の事情を総合考慮しうるものと解されるのであるが、なおその裁量が、当該所為との対比において甚だしく均衡を失するなど社会通念に照らして合理性を欠くものである場合には、その裁量の範囲を超えるものとしてその効力を否定すべきであり、しかも右処分のうち免職処分は、職員の地位を失わせるという他の処分とは特段に重大な結果をもたらすものであるから、その選択に当っては他の処分を選択する場合と比較して特に慎重な配慮を要するものといわなければならない。

そこで以下本件について諸般の事情を検討する。

(一)  本件各所為の違法性の程度

前示のとおり、債権者の本件所為は、違法な本件ストを下十条電車区において実践し成功させるため、ストに参加しようとしない組合員に参加を求めあるいは不参加に抗議するためにしたものであるうえ、その態様において粗暴かつ執拗なものというべきであり、懲戒に値するものといわなければならないが、なおその違法性の程度につき検討を加えると以下のとおりである。

まず、前記二項(二)認定の第四二二B電車関係の債権者の所為のうち握り棒を離さなかった点を除いた行為、すなわち電車の乗車業務に従事中の職員に対し集団で罵声をあびせ運転室窓ガラスを叩きドアを足蹴りにした行為を業務妨害という観点からみると、乗務員の身体や電車の運転装置に対し直接実力を行使してその運行を妨害するのと異り、ホームの上からドアをへだてて単に乗務員に対する心理的圧力により業務を妨げるものに過ぎず、業務妨害の実効性もさほど大きいものとはいえない。また電車の発車にもかかわらず握り棒を離さなかった点も、直接行動に出たとはいえ電車の前面に立ちはだかり坐込むといった絶対阻止の行為態様とは異なり、これにより電車の発進を最後まで阻害しようとの意図に出たものではなく、わずか二、三歩歩いてこれを離したのである。同電車は結果として一分三〇秒延発したのであるが、前示のとおり、その原因に債権者の行為が直接的、具体的に関わっている程度はそれほど大きいとは認められず、債権者の所為によって実際に妨害された業務即ち実害の程度は、とりわけ重大というわけではない。次に前記二項の(三)認定の庫内運転士詰所関係の債権者の所為のうち運転士らに対する行為はなるほど長時間にわたり執拗かつその言辞において粗暴ではあるが、その間運転士らに対する連行、身体への暴行等のいわゆる有形力の行使はなく、単に無形的、心理的圧力を加えたのに過ぎず、結果としても運転士らはこれにより翻意することなくスト不参加の態度を貫き債権者はいわゆる説得の目的を達しなかったのであるし、長時間とはいえその最初の約二五分間については債権者らの行為の程度は本件証拠上しかく詳らかでないこと前示のとおりであるうえ、さらに、午前一〇時四〇分ころから同一一時ころまでの二回目の行動は、分会役員として債権者より上席に当る田村書記長が同席したことからも、最後に同書記長が管理者側と収拾策を合意している点からも、一回目の行動に比し債権者の指導性はより低いものとみなければならない。また管理者の退室命令に従わなかったとはいえ最終的には債権者の意思によって退室したのであるし、債権者らの所為によってその間詰所内は混乱に陥ったといっても、前認定のとおり債権者らが最初に退室した際には管理者側は須藤助役一人を残してその余の三名は一旦引上げたことや、二回目の入室行動に関しては最終的に管理者側と田村書記長との話合いによって事態が収拾されていることなどに照らしても、その混乱の程度はとりわけ重大、深刻なものであったとは窺えないのである。本件ストに関して後に認定する他の処分例にある如き多くの現場でみられたいわゆる強制連行行為に比較すると、その攻撃性、違法性は軽微なものとみなければなるまい。

ところで以上判示のとおり、本件では、債務者当局が本件懲戒処分の事由とした事実(即ち債務者主張の事実)はその一部分が認定できず、いわば縮少された非違行為を基礎として事後的判断をするのであるから、前示のとおり広範な事情を斟酌しうる当局の裁量権をできるだけ尊重すべきものにしても、自ら限度があるといわざるをえない。

(二)  本件ストにおける債権者の地位

≪証拠省略≫によると、本件ストはその実施時間、実施区域、ストによる影響の大きさにおいてそれまでに例のない大規模なものであって、本件免職処分を決定するに当ってはこの点も考慮されたことが疏明される。しかし、前示のとおり債権者は国労の末端機構である分会の一執行委員であり、本件ストに至る国労の中央、地方本部、支部段階におけるいかなる決定にも参画したと窺える資料はない。そして組織上分会は右のようなストライキ決定及びその実施方法に関する決定に拘束される関係にある。もっともストライキを現場において実践するのは分会及びその組合員であって、上部機関の決定の範囲内で現実にこれをどのように消化するかは分会に委ねられるわけであるから、債権者も分会執行委員としてその協議に参画し、そして本件スト当日の一般組合員の行動に関し指導的立場にあり、本件各所為もこのような立場においてなされたものであるが、分会現場においても、現場最高責任者として上野支部から平井執行委員が派遣され、分会執行委員長ほかいわゆる分会三役があって、債権者はその指揮下に位し、債権者の本件所為は基本的には分会における協議結果やこれら上席者の指示に沿うものである。

本件所為についての債権者の責任も、右のような地位に相応して評価される必要がある。

(三)  他のストライキ処分及び本件ストに対する他の処分例との対比

1  ≪証拠省略≫によると、次の事実が疏明され、これに反する証拠はない。

国労東京地方本部(以下単に東京地本という。)関係で本件ストに関して公労法一八条により解雇(以下単に解雇という。)された者の数は二五名、国鉄法により免職処分(以下単に免職という。)された者の数は債権者を含め五名の多数にのぼり、そして右解雇者はいずれも国労本部、地方本部、支部の役員及び分会の執行委員長(即ち国労役員として分会執行委員長以上の地位にある者)であるのに対し、免職者はいずれも分会副執行委員長以下の分会役員と色分けされているところ、昭和四〇年以後本件スト以前に行なわれた数多くのストライキに関して東京地本関係で分会役員(執行委員長も含めて)が解雇ないし免職されたことはほとんど皆無であったし、また支部以上の役員も含めて国鉄法で免職された者も一、二名の特殊の例を除いていなかった。もっとも本件ストに関して右のように従前にない大量の解雇、免職者を出し、かつその対象者が分会役員にまで拡大されたのは、前示のとおり本件ストがそれまでにない大規模なストライキであったことに関係する。しかし、その後の昭和四七年四月二七日の春闘スト、昭和四八年四月一七日の春闘ストはいずれも実施時間が二〇時間を超え、その客貨車運行に及ぼした影響も本件ストを超える大規模なものであったが、これらに関しての東京地本関係の被処分者は、昭和四七年、同四八年各春闘とも解雇各八名でいずれも免職はなく、かつ解雇者の中に分会役員を含まなかったし、さらにその後も現在までより大規模なストライキが繰り返されているが、解雇の減少傾向、免職処分のないこと、解雇者に分会役員を含まないという傾向は続いている。このように本件ストに対する解雇及び免職の処分は、総量的にみて、前後のストライキに対するそれに比べ顕著に大量かつ広範である。

2  次に、≪証拠省略≫によると、東京地本関係で本件ストに関し国鉄法により免職された者四名の処分事由は概略次のとおりであることが疏明される(なお各人の組合における地位は≪証拠省略≫により疏明される。)。

A(浅野孝)(田町電車区分会副執行委員長)本件スト当日午前一時ころ二回にわたり他の組合員らと共に管理者の制止にもかかわらず勤務中の職員らを強制的に連行し、同四時ころ電車の出庫作業につこうとする職員を他の組合員らと共に取り囲み連行しようとし作業のため同電車に乗車した同職員を引きづりおろすなどした。同八時ころ構内通路において他の組合員らと共に出勤途上の職員が路上に座り込むなどして抵抗するのを強制的に連行しようとし同職員の上衣を破損させ、同一〇時ころ多数の組合員を連れて詰所に侵入し管理者の制止にかかわらず抵抗する勤務中の職員らを強制的に連行した。またスト後の同年五月三一日構内通路において他の組合員と共に本件スト不参加の職員を取り囲んでいるところへかけつけた管理者の制止を無視し、助役二名に対し足で蹴るなどの暴行を加えた。(因に同人提起にかかる当庁昭和四七年(ワ)第九九九〇号免職処分無効確認請求事件につき当裁判所は本判決言渡に先立ち免職処分を有効として請求棄却の判決を言渡した。)

B(新宿駅分会青年部長)スト前日の五月一九日夜組合員数名を指揮し駅構内庁舎二階に侵入し就寝中の職員七名を起床させ下着姿の職員を含め抵抗する職員を強制連行し、スト当日午前二時前数名の組合員を指揮して詰所に侵入し管理者の制止をきかず休憩時間中の職員に対しみずから腕をつかんで連行し、次いで輸送配車室、運転室、小荷物中継事務室等に相次いで侵入し管理者の再三の制止、警告を無視し抵抗する勤務中の職員を強制連行した。

C(中原電車区分会書記長)スト当日駅ホームにおいて多数組合員を指揮し停留中の電車の閉扉を妨害させるなどして同電車の発車を遅延させ、構内において電車乗務を終了して帰区途中の助役を他の組合員と共に怒号罵声をあびせて吊し上げ、さらに事務室において多数組合員と共に管理者の再三の制止にもかかわらずスト不参加者約二〇名に対し一人づつ踏台に立たせみずからもマイクを使用して怒号罵声をあびせるなどして吊し上げ、また管理者の制止警告を無視して多数組合員と共に五月二一日、五月二四日にそれぞれスト不参加職員に対し怒号罵声をあびせて吊し上げ、さらに五月二五日、二七日、三一日には同様の方法で検修作業中の職員を吊し上げ、それぞれその職務を妨害し、特に二七日には火のついた煙火を職員の鼻先すれすれにつきつけるなどした。

D(中原電車区分会青年部委員)スト翌日の五月二一日検修関係点呼場で数名の組合員と共にスト不参加職員らに対し怒号罵声をあびせたほか始業点呼が終了すると管理者の制止にもかかわらず分会書記長らとともにスト不参加職員数名を包囲し体操指導台付近まで強制連行のうえ怒号罵声をあびせて吊し上げ、その職務を妨害した。五月二五日には二ヶ所においてそれぞれ分会書記長らと共にスト不参加職員に対し管理者の制止もきかず同様の吊し上げをし、その後別の場所で他の組合員らと共にみずから自分の肩で職員らの身体をこづきながら同様の吊し上げをし、翌二六日、六月三日にもそれぞれ勤務中の職員に対し他の組合員数名とともに同様の吊し上げをした。また六月九日には勤務中の職員に暴言をあびせ持っていたレンチ(検修工具)を同職員に投げつけるなどの暴行をはたらいた。

これらの所為との対比において前(一)項に指摘した諸点を通して債権者の本件所為をみると、特に本件の場合は職員に対する強制連行身体への暴行等の実力又は有形力の行使を伴わず、行為数も二つにすぎないなどの点において、そのいずれよりもその情が軽度なものと窺われる。

なお≪証拠省略≫の動労組合員に対する免職処分例は、同人が支部執行委員長の地位にあり、支部の闘争計画指導の責任を含む点において、本件との比較の対照とし難い。

3  また、≪証拠省略≫によると、本件ストに関し次のような懲戒処分例のあったことが疏明される(氏名は省略し、組合役員としての地位・処分事由の概要・通知された処分の内容・発令された処分の内容の順に記載する。処分中減給は特にことわらない限り一〇分の一、以下同じ。)

品川駅分会青年部書記長 四ヶ所において各職員連行行為 減給三月 同一月

同分会執行委員 五ヶ所において各職員連行行為 減給三月 同一月

同分会執行委員 三ヶ所において各職員連行行為及び欠務 減給三月 同一月

同分会執行委員 二ヶ所において各職員を強引に連行した行為 停職六月 同

同分会副執行委員長 闘争指導及び職員連行等による業務阻害 停職六月 同

品川車掌区分会執行委員 車掌や出発する列車電車の乗務員の通路を塞ぎ進路を阻止、欠務 減給一二月 同六月

池袋電車区分会執行委員 スト不参加者を詰問、組合への賃金納入方につき強制的に文書を書かせ署名押印させた 減給六月 同三月

同分会青年部長 構内ビラ貼り、構内ジグザグデモ 減給一〇月 同六月

同分会執行委員 欠務、構内ビラ貼り、組合員を指揮して構内ジグザグデモ

停職一〇月 同

上野保線区分会執行委員 欠務、職員連行行為 減給一〇月 同六月

4  ≪証拠省略≫によると、債権者の所属する下十条電車区分会の組合役員に対する本件スト処分についてみると、いわゆる分会三役は闘争指導責任を問われて、田島執行委員長は停職一〇月、岩村副執行委員長及び田村書記長は各減給一〇月(発令は同六月)に処せられた(このうち田島委員長は債権者の本件免職処分事由とされている前記二項(二)の行為について指導的立場にあったのであり、田村書記長は同じく前記二項(三)の後半の行為について指導的立場にあった)ほか、執行委員のうち二名が各欠務の責任を問われて減給三月(発令は同一月)、青年部長が同じく欠務の責任で減給一月(発令は同一月三〇分の一)にとどまっていることが疏明される。

5  以上の各処分事由について個別的事情のすべてが明らかにされるには至っていないが、これら処分を全体的、総量的にみて、本件処分の軽重判断の一助とすることは可能である。そして右1に認定したように、本件ストに対する解雇及び免職処分は、その前後のストライキに対するそれに比べ、数においてまた対象者が分会執行委員にまで及んでいる点において厳しいものであったことに加え、そのような本件スト処分の中においてすら、右2ないし4のような他の処分例と対比してみて、行為の態様、回数、情状等に照らし、債権者の本件所為が免職処分に位置づけられるべき必然性は認められないのである。

(四)  他面、≪証拠省略≫によると、債権者は本件処分以前にも、昭和四三年一二月七日国鉄法三一条による減給一月(三〇分の一)、昭和四四年一二月二〇日訓告、昭和四六年三月一日戒告二件(昭和四四年一〇月三一日機関助士廃止反対闘争関係及び昭和四五年六月七日、七月一日処分反対闘争関係)の各処分を受けた経歴を有することが疏明される。

なお≪証拠省略≫によると債権者の平素の出勤状態は必ずしも良好でなかったことが一応認められるのであるが、右資料は極めて断片的なものであって、債権者の平素の勤務態度の実体を判定するにはいささか不十分なものといわざるを得ない。

さらに債務者は、本件処分をするに当り考慮した事情として、債権者の本件スト前日五月一九日午後七時すぎの演説(この点については先に判断した。)のほか、スト翌日の二一日午前一〇時ころの職員二名に対するいやがらせ行為及び同日午後零時ころの職員に対する吊し上げ行為をも主張するところ、≪証拠省略≫によると、債権者がその主張の日時場所において主張の職員に対しスト不参加の責任を問い詰るような発言をしたことは一応認めることができ、本件ストが違法である以上違法ストに参加しなかったことをもって非難することは好ましくないことといわざるをえないが、しかし、それだけをとりたてて違法視するわけにもいかないというべきところ、債権者がその節度を超えて違法ないやがらせ、吊し上げないし職務妨害行為を行ったと認めるには、右疏明資料は簡にすぎて不十分といわなければならない。

(五)  右(一)、(二)の事情を綜合すると、債権者の所為は、その外形、原因、動機、状況、結果等行為の要素においてあるいは違法性の程度において、その所為の故に債権者を終局的に職場から排除するのでなければ債務者の企業秩序維持確保のうえで重大な支障があるというほどのものとはとうてい認めることができないし、また右(三)においてみたところによれば、本件免職処分は他のストライキ処分や本件ストにおける他の処分事例との対比においても酷に失するものといわざるをえない。従って、右(四)に判断した事情を考慮に入れ、なお債務者総裁がその他諸般の事情を考慮しうるものであることを念頭においても、なお本件免職処分は、本件所為との対比において甚だしく均衡を失し、合理性を欠くものというべく、裁量の範囲を超えるものであって、懲戒権の濫用としてその効力を否定すべきものといわなければならない。

五  被保全権利とその保全の必要性

以上のとおりであるから、債権者に対する本件懲戒免職の意思表示はその余の判断をするまでもなく無効であり、債権者はなお債務者の職員たる地位を失っていないというべく、そして債務者に対し昭和四六年九月一日以降毎月二〇日を支払日として別紙賃金目録の月額賃金欄記載のとおりの賃金請求権を有することとなる。

しかるところ、≪証拠省略≫によれば、債権者は債務者から支給される賃金を唯一の生活の資として、母を扶養し生活していたものであるが、昭和五〇年二月に結婚して妻を扶養し、なお現在は病気入院中の姉をも扶養していることが疏明されるから、これによれば本案判決確定に至るまで債務者から職員として取り扱われず、賃金の支払いを受けられないでは、生活の困窮等著しい損害を蒙るおそれがあり、本件地位保全、賃金仮払いの仮処分の必要性があるものというべきである。もっとも、債権者は本件免職処分後国労犠牲者救済規則に基づき、組合から賃金その他期末手当等相当額の支給を受けていることが当事者間に争いないが、弁論の全趣旨によれば、右支給金は債権者が本案において勝訴し債務者からその支給期間中の給与等の支払いを受けたときは戻入しなければならない性質のもので、暫定的、臨時的なものにすぎないうえ、免職処分の無効を前提として考えれば、本来債務者が支給すべきであるのにその支給がないためやむなく組合員の資金即ちその犠牲においてこれを補完しているにすぎないものであるから、その故に本件仮処分の必要性を否定すべきものではないと考えるのが相当である。

六  結論

以上の次第で債権者の本件仮処分申請は理由があるから、保証を立てさせないで認容することとし、申請費用の負担につき民訴法八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 松野嘉貞 裁判官 濱崎恭生 仙波英躬)

〈以下省略〉

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例